先日、とある国の料理を都内某所に食べに行った。口コミの情報を頼りに、看板もない、日本在住の現地人コミュニティのあるようなところにたどり着いた。
どうあがいてもしゃべっている内容を推測することのできない男二人が座っている向かいの席に座らせてもらう。メニューはなく、日本語がぺらぺらとは言えない店員に「これか?」というような感じで注文を尋ねられる。
ちょっとカオスで、久しく海外に行っていない私には渇きを癒すようなひと時だった。
たまには旅の話をしたい。
アルヘシラスという町がある。スペインの南岸で、アフリカとの船が行き交う。イギリス領ジブラルタルのこんもりした丘を望む港だ。
日が沈みきった頃にモロッコからユーラシア大陸に帰着した私は、旅程的に急いでいたので次の町へ向かおうと駅へ向かったのだが、本日中の移動は厳しく、その場でこの町の宿をとって泊まることにした。
お腹が空いていたので、どこか食べるところを探そう。どこにあるかわからないバーガーキングの案内板を横目に、駅から港のほうへ戻っていた。ハンバーガーとかを扱っている店が多い。
多くの店はモロッコ人と思われる人がやっているようだ。その中の一つで何か食べることにした。
路地の見える窓際の席に案内され、そのまま席に着く。2人がけの奥の席。お店にいる人たちが、たぶん向かいの国の言葉で話しているのが聞こえる。
しかし気になったのは、窓の外のほうだった。
十数人くらいの男たちが、路上にガラクタを広げている。安っぽい日用品から、大の男になんの需要のあるかわからない女児向けの人形まで取り揃えている。フリマでもやっているのだろうか。それにしては、ちょっとごちゃごちゃし過ぎているというか…。
なんだこれはと思っていると、ヒジャブを被ったオバチャンが勝手に向かいの席に相席してくる。何も言わずに、窓の外を楽しそうに眺めている。
なんだかワケのわからないことになっているぞ……大丈夫かこれ。サンドイッチを食べている私。冷や汗がでてくる。
食べ終わって店を出た。すでにガラクタは畳んであった。だが、あろうことか宿のある場所は連中がうろついている。
危険なにおいもしなくもないが、まあ大丈夫だろう、通るだけだし。
すぐ脇にある、まだ大通りの見える路地へ入る。
宿を探していると男の一人が声をかけてきた。「ホテル?そこだよ。」
次の1.5秒くらい(割といい人なのかな…)と思いかけた直後、彼は「1ユーロ!1ユーロ!!」とカネを要求しはじめた。
何かとカネを要求してくるおじさん達がいる、モロッコの旧市街という魔境を出たと思っていた私は油断していた。ここはまだアフリカなのだった。
反射的に、教えてもらったホテル(ゲスハ)の真っ暗な建物の内部に逃げ込むと、それ以上彼は追ってはこなかった。
チェックインを済ませて、考える。
結局あの人たちは、どういう集まりなのだろう。ごちゃごちゃとガラクタを広げて、何をしていたのだろう。なぜ、1ユーロ(当時は130円ほど)という、何の足しにもならないような金額を要求してきたのだろう。
一体いくつの国境を越えて、この街にやってきたのだろう。
ヨーロッパの端の国では、不法移民の問題がある。海を渡ってすぐのモロッコの、さらに南の国々から、貧困や紛争を逃れて多くの人々が命がけでやってくる。
彼らがそうなのかは知らないが、混沌が謎を生む。
明らかに、危険なことの起こりそうなところに突っ込むのはよくないが、節度をわきまえられればカオスの中から知らなかったものが見えてくる。
見えてくるというよりは、謎というかたちで「あらわれる」。
変化に飢え続けている私は、カオスは恋しくもある。