雑音日和

教祖になるのが夢です。

卵の哀悼

 生卵が好きだ。パスタとかミーゴレンとか、麵モノには大体合うので、上にくぼみを作って乗せることが多い。牛丼店に行くとデフォルトで注文しているメニューといえば、ねぎ玉牛丼である。黄身ももちろんおいしいし、白身のとろとろしている感じもたまらない。幸せという概念の塊が口の中に広がっていくような味わいはまさに、天の恵みと言っていいだろう。日本人でよかったと思う瞬間だ。

 

 とある平和な昼、私は台湾まぜそばにこの魔法のとろみをミックスすべく皿のふちで卵を叩いていた。

 

…するとだ。ガシャッ!!

 

  私の思考が追いつくより先、右手に握った殻の一部を残して、幸せの塊は地に落ちていた。あの神々しい黄金の太陽だったものは淵の方から形が崩れ、時間の経過とともに輝きを失ってシミになっていく……。

 

 ああごめんなさいごめんなさい…。卵を落とした時ってどうしてこんなに気分が落ち込むんだろう。足元で盆に返らぬ腹水になった生命の塊。一生消えない大罪を背負った瞬間のような気分だった。私はこれからきっと裁きを受けるのだ。取り返しのつかないことをしてしまったのだ。だって黄金の太陽を亡きものにしたのだから……。

 

 止まらない責め苦。血肉にするつもりだった君よどうか罪深い私を許しておくれ!